みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

舞台

 


 牧人みたいなおもざしをして、
 きみが藪のなかへ去ってしまうとき
 おれはかつてのことをおもいだす
 豊岡の竹野で大衆演劇の一座にいたことを
 読売テレビのディレクターがおれを演出してたこととか
 どうだっていいことを考え、本質から逃れようとするおもい
 役者たちにあるのは脂身と、ギャンブルだけ
 粗野な男たちと野卑な女たち
 だせえジャージーを着て、楽屋をうろつく
 おれはおもった、――こいつはいけ好かない
 やがて一座は静岡へ
 小汚い宿で
 夜通し荷物を運んだ
 坑のあいた床、見棄てられたバー・カウンター
 そしてなんの見所もない土地とか
 ディレクターは土足禁止をやぶって、
 カーペットのうえを歩く
 そして芝居が始まる
 おれはやつのいうように派遣切りとか、いったんだ
 実際はただただ道に零れ、職にあぶれただけというのに
 ある夜、おれはやめた
 座長に撲られた
 易怒性に煽られながら、
 過古にむかって思考して、
 アルコールのなかで、人生の地平が暮れてゆく
 虹鱒を逃がせ、
 虹鱒を逃がせ、
 おれはおれという劇物を高めてしまってた
 やがてなにもかもが遠くになって、
 おれはおれの毒から解き放たれたのを知った
 いまではかつてのように怒りをもってふりかえることもない
 きみがほんとうのおれを知ったら、いったいどうおもうだろうか
 ところで、おれの人生にはどうしたものか、ヒロインがいない。