霜月も終わりを始めて
死にそうなほど酒を呑みたくなったある日
送られてきたレポート文におれは楽しみを見つけたよ
きみは確かこう書いていたね
〈空中を飛行する脳──それも人間のである──が目撃されている.先月末にイングランドはウェールズ地方にて当地の農夫Philip=Edinburghや売春婦Elizabeth Queen,大工Edward Heathらがまことに細なる証言を始めた.かれらは飲酒癖のあるものの、まったく正常と判断されている.われわれは一師団を組み,一路イングランドへ落下を試みたが,しかしここで事態は急変する.なんとここ日の本の国においても,羽をもった飛行する脳が目撃されたのである.英国調査を私はアルバイトに任せ,現在国内を調査している.〉
なんだ、これは?──おれは首をひねった
ひねりすぎて首を痛めた
きみは大学院で生物学及び
生態学とやらを学びすぎて狂ったのか?
答えは否だ
おそらくきみの脳にも翼が生えてきてるのだ
〈この飛行隊は通称flying brainと呼ばれ、さる十二月十三日(金曜日)大阪府西成区萩野町にてその存在を現した。目撃者のひとりであるn.mという詩人によると,大きさはまさしく人間のそれで,両脇──脳に脇だって?──に天使か白鳥のような翼が生えていたという,そして眼をもっていなかったという.かれは細密なるペン画としてそれを再現してくれた(添付資料参照).fbは二羽おり,いっぽうは東へ,もういっぽうは北へ去っていったという.わたしは実地調査のために翌朝には〉
うるさい
うるさすぎる
窓の向こうに郵便配達夫が赤いカブを蹴り上げている
うるさいし、あほうだし、まぬけだ
おれもかつて配達夫だったとき、同じことをした
どうやらガス欠を現実と認めたくないらしい
くそったれ、おぼえがあるぜ
やつはますます苛立ちをたかめ、蹴り上げる
そのときだった
ヘルメットがわずかにもちあがる
と思えば白い翼が両脇からあざやかな時代を伴ってひろがり、
うかびあがっていく!
一回転してヘルメットだけをやつにかえすと
青空のなかへ融けるように消えていった
やつは、配達員は気づくそぶりもない
そらとぶのうみそだ!
〈かれらはなにかの予調なのか.果たしてわたしはある男と知り合った.自分こそは幻視者と宣伝して恥ぢないドヤ街の老夫.──ここではa氏と呼ぼう.わたしはかれの部屋に入ることを許された."なにから話そうか",──まずはあの脳の起源について〉
答えはたやすかった
高度の欲望をもち、
創造の可能性をもった人間が
つよい抑圧に曝されつづけると、
脳がある種の呼吸困難に陥り、
翼を数ヶ月から数年かけて生やし、
飛んでしまうというのだ
おれは正午をまえに中央公園に足を伸ばす
ちょうどパレードの演習のため、
楽隊がどのベンチも占領し、
それが揺るぎない正しさであると誇示していた
おれはそれとなくやつらを睨む──そこへかれらがやってきた
かれらって? もちろん空飛ぶ脳だ
かれらはおれの右手からレポートを奪う
楽隊たちは幼稚な赤い衣装を大胆に濡らし、
くそといばりのマーチを奏でる
すばらしい失禁の仕方だ
おれはやりたくないけどな
直立のままそれを聴き、fbたちを見つめる
そのなかにおれの脳を発見する
ああ、速く全世界がこの美しすぎる景色に眼を向けるべきだ
おれの正午はマーチを連れて羽を休めている