みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

正午(2009)

 

  霜月も終わりを始めて
  死にそうなほど酒を呑みたくなったある日
  送られてきたレポート文におれは楽しみを見つけたよ
  きみは確かこう書いていたね

 〈空中を飛行する脳──それも人間のである──が目撃されている.先月末にイングランドウェールズ地方にて当地の農夫Philip=Edinburghや売春婦Elizabeth Queen,大工Edward Heathらがまことに細なる証言を始めた.かれらは飲酒癖のあるものの、まったく正常と判断されている.われわれは一師団を組み,一路イングランドへ落下を試みたが,しかしここで事態は急変する.なんとここ日の本の国においても,羽をもった飛行する脳が目撃されたのである.英国調査を私はアルバイトに任せ,現在国内を調査している.〉

  なんだ、これは?──おれは首をひねった
  ひねりすぎて首を痛めた
  きみは大学院で生物学及び
  生態学とやらを学びすぎて狂ったのか?
  答えは否だ
  おそらくきみの脳にも翼が生えてきてるのだ

 〈この飛行隊は通称flying brainと呼ばれ、さる十二月十三日(金曜日)大阪府西成区萩野町にてその存在を現した。目撃者のひとりであるn.mという詩人によると,大きさはまさしく人間のそれで,両脇──脳に脇だって?──に天使か白鳥のような翼が生えていたという,そして眼をもっていなかったという.かれは細密なるペン画としてそれを再現してくれた(添付資料参照).fbは二羽おり,いっぽうは東へ,もういっぽうは北へ去っていったという.わたしは実地調査のために翌朝には〉

  うるさい
  うるさすぎる
  窓の向こうに郵便配達夫が赤いカブを蹴り上げている
  うるさいし、あほうだし、まぬけだ
  おれもかつて配達夫だったとき、同じことをした
  どうやらガス欠を現実と認めたくないらしい
  くそったれ、おぼえがあるぜ
  やつはますます苛立ちをたかめ、蹴り上げる
  そのときだった
  ヘルメットがわずかにもちあがる
  と思えば白い翼が両脇からあざやかな時代を伴ってひろがり、
  うかびあがっていく!
  一回転してヘルメットだけをやつにかえすと
  青空のなかへ融けるように消えていった
  やつは、配達員は気づくそぶりもない 
  そらとぶのうみそだ!

 〈かれらはなにかの予調なのか.果たしてわたしはある男と知り合った.自分こそは幻視者と宣伝して恥ぢないドヤ街の老夫.──ここではa氏と呼ぼう.わたしはかれの部屋に入ることを許された."なにから話そうか",──まずはあの脳の起源について〉

  答えはたやすかった
  高度の欲望をもち、
  創造の可能性をもった人間が
  つよい抑圧に曝されつづけると、
  脳がある種の呼吸困難に陥り、
  翼を数ヶ月から数年かけて生やし、
  飛んでしまうというのだ
  おれは正午をまえに中央公園に足を伸ばす
  ちょうどパレードの演習のため、
  楽隊がどのベンチも占領し、
  それが揺るぎない正しさであると誇示していた
  おれはそれとなくやつらを睨む──そこへかれらがやってきた
  かれらって? もちろん空飛ぶ脳だ
  かれらはおれの右手からレポートを奪う
  楽隊たちは幼稚な赤い衣装を大胆に濡らし、
  くそといばりのマーチを奏でる
  すばらしい失禁の仕方だ
  おれはやりたくないけどな
  直立のままそれを聴き、fbたちを見つめる
  そのなかにおれの脳を発見する
  ああ、速く全世界がこの美しすぎる景色に眼を向けるべきだ
  おれの正午はマーチを連れて羽を休めている