みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

叶えられない祈りのなか、ぼくはぼくの指を握ります

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地下鉄

 

 水に充たされた花野であしたの仕事がないという事実を呑む
 なんてこともなくダートを走り抜く馬みたいな勢いが要る
 だのに空気の抜けたダッチワイフみたいにおれは存る
 たまたま掴んだ書物と、たまたま掴んだ絵筆が、
 しつこくおれを狙ってる、
 どうぞ打ち落として、
 そのままにして
 欲しい
 オーヴァー・スロウしつづける鳥影
 じぶんが安全であって欲しいと願うだけでなにもできない
 それでもおれの書いたものはたしかだ
 なんのまちがいもなく、
 おれがばかやろうだと暴いてくれてるから
 ともかくあしたの仕事がない、
 カボチャの検品が終わって倉庫はひまになってしまった
 しばらくは廃棄のバナナとも会えそうにない
 聴いてくれ、ルゥ、おれはしくじった
 心一条に打ち込める、そんなものを
 おれは見つけられなかったんだ
 雨あかりのなかで
 花がひらくまで
 これからは
 じっとして待ちたい
 どうか慈悲を
 どうぞ軽蔑を
 所有することに厭いてしまったんだ、ルゥ
 好まれることに厭いてしまったんだよ、ルゥ
 喰うことは外せないけれど、
 そんなことのために働くのはもう終わりにしたいんだ、ルゥ
 おれは地下鉄の入り口まで歩いて、
 溝に唾を嘔く、
 だれかが顔をしかめる、
 もう若くない白人女たちが通り過ぎる
 おれは階段を降りて、
 改札にたどり着く、
 若い男と擦れちがう
 どうしてなにもかもありふれた仕事みたいに終わっては消え、そして現れるのか
 あきらめておれは女学生たちを見る、かの女らは教えてくれる、
 おれがいかにポンコツの老いぼれだってことを
 おれにはなにもできない
 たまたま与えられた選択肢のなかで、
 多くを求めすぎて、
 なにひとつ得られない、
 たったいま自転車がいちだいプラットホームへ降りてった。
 

河の暗いところで


 きょうのためにできることの、その心許なさ
 金が減ってものが増えるだけの、うしろめたさ
 なにもないところからでて、なにもないところに帰るだけ
 ところで存在するってわるいこと?
 それとも善いことなのかを教えてくれ
 男がいる、
 河の暗いところで、
 立ってる、
 そして泣いてるように見える
 どうだっていいけれど、
 ぼくはぼくの亡霊でしかない
 叶えられない祈りのなか、ぼくはぼくの指を握ります
 
 もしかの女がこの室にいたらとおもう
 もしかの女がぼくのなかを読んでくれてたらとも
 でもぼくはもはやかの女のために書きはしない
 かの女のために唄ったりしない
 雲が水へ還るみたいに
 かの女の姿はいつもおなじじゃない
 ぼくがいる、
 河の暗いところで、
 坐ってる、
 そしてみずからと戯れる
 どうだっていいわけじゃないけど、
 いまのところはなにもかも忘れて、
 ラダーシリーズのレベル1から、
 ロサンゼルス郡立博物館まで渡航します。