みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

第2詩集「38wの紙片[second edition]」


 '14年にモノクロ印刷にて出版し、その後'17年に再編集してカラー化。ISBNも取得。撰と序文は森忠明、写真・デザインは著者。

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表紙

 

  ふるえ


  ふるえをとめてはいけない
  とめては旅路がみえなくなるから
  ほら
  ぼくの疵口をごらんよ
  これがたったひとつの標べなんだ
  貨車が通りすぎ
  厩の戸がひらく
  馬を盗もう
  そいつでどこまでもどこまでも
  どこまでもいくんだ
  そうつぶやきながらぼくは脱出の夢から醒める
  そうしてトランクを掴んでは
  からっぽのそいつを抱く
  「天使はポケットになにも持っていない」
  ダン・ファンテの物語はそう告げて
  娼婦たちのコーラス・ラインに手をふった
  でもいくら路をいったところで
  出会えるものはもうなにもないんだ
  あの子のためならなんでもできるって、そうおもったころもあった
  いまぼくにできるのはすべてをうっちゃらかしちゃって
  ふるえとともに行路につくこと
  あるいはハンプティ・ダンプティになって
  塀のうえを踊りつくすのみ

 

   点描

                          for y

  かつてあったらしいもろもろを求めてながら
  点をたどったところで
  なにもない
  わたしはあたらしい雨を待つ
  やもめ暮らしの男だ
  ひと昔か
  それよりもっとまえのことにあたまのなかが充たされ
  とてもじゃないがそいつは追いだせない
  みじめったらしく
  とっても醜いやつ
  過ぎ去ってもはや掴まえることもできない過古と終わりなく話す
  だれかがわたしを憶えてるかも知れない
  でもそれは気休め

  たしかに13年まえの4月
  まだ15歳
  駅ビルでわたしはかの女から声をかけられた
  あかるい声と
  とても素敵な笑みで
  でもそのときおもうままに応えられなかったみじめなやつだ
  すごくうれしくて
  すごくこわくなって
  逃げだしてしまった
  かつてあんなにも好きだったのにもかかわらず

  きょうもあたらしい雨はやってこなかった
  かの女への手紙をいくら書きあげても
  届けるあてはない
  通りを警笛が鳴りやまず
  5月の窓を閉じてわたしは横たわる
  かの女の20歳すらも知らず
  そんなことがとってもくやしい
  どうしてなのか


   清掃人


  少なくとも
  かつてあったものはそのかげを残してるだけだ
  ものはみな失せ
  手づくりの神殿のなかへと
  そしてそいつは清掃車が運び去ってしまった
  ありもしない裏通り
  架空のカウンターで愛しいひとたちがいなくなっていく
  それはまちがいなくみずから撰んだ札だった
  急ぎ走りでとめることもできない速さをもって
  おれは自身をおきざりにしたんだ
  そいつのあまりの惨めさで
  手に入れられるのは中古るのやすらぎ
  せいぜいのところオープン席三十分のそれ
  欲しいとおもったものはそれぞれ納屋の仕方で燃え
  ゆっくりと遠ざかる景色
  田舎の国道で
  天使どもがはげしいおもづらでおれをどやしつけ
  中古車センターだけが輝かしい
  路上に擦り切れ
  かぜになぶられた
  このおれが手にできるのはテニスンの短篇ですらない
  けっきょくは別離
  自身を運び去っていく清掃人のような
  ありかただけ

 

38wの紙片 [second edition]

38wの紙片 [second edition]