みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

詩集「終夜営業|Open 24 hours|発送受付(2012)」、無料公開

 

終夜営業 | Open 24 hours |発送受付

終夜営業 | Open 24 hours |発送受付

 

 

 '12年に自主制作した第1詩集「終夜営業|Open 24 hours|発送受付」の普及版をドライブにアップロードしました。一読、御高覧ください。猶、書体を変更しています。

 

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表紙

 

遺失物預かり所⇒

 

   人生のために失う
   失われるものたちを見よ
   黒い馬
   札のかかったなまぐさきものたち
   どこへでもゆける窓
   長いお別れのせりふ
   れもんのように冷めた色彩
   やなぎのようにしだれかかる美しいものども
   玉葱のようにものがなしいものども
   解体場の燈しのきらきら
   残された小銭にみる自身
   すべての友人になれない男たち
   あらゆる恋人にはなれない女たち
   夢は燃えながら建つ納屋
   人生の、
   人生のために失ったのだ
   ラジオがとびきりひどいものを鳴らしながら
   教えてくれることはおおい
   ひとつにもはや、
   口ずさめるうたのひとつもないということをだ
   空間や時間の四隅で
   おびえているものがいるということ
   人生の、
   人生のために失いつづけ、いっぴきの猫が馳せのぼる階段、
   そこの半分に腰かけてみせよう
   ほら、
   なにがみえる?

 

キャバレー・ロンドンへの入口はこちらではありません。当店は飲食店となっており、

 

   なまくらだ
   さみしいとか
   むなしいとか
   かなしいとか
   おおきな通りをふたつまたいで、やかましい路次の、
   そこのかげを嗅ごうとして腕をつかまれた
   どこかぎこちない音声アナウンスとともに
   どんな唄よりも冷えきった手はあつい
   おれにはなんにもないんだ
   それは有料遊戯の赤ランプだ
   硬貨の切れてしまった屋上の遊具たち
   なんにもいわないのは支那慰安婦たち
   とまっていてくれることへ
   ありがとうだ

   酒場の窓どもがうすぐらい光りをし、だれとだれとを蚕食してる
   帰っていけるのだ、
   ありがたくおもいな
   地下室から演奏が洩れだしてる
   聞えて来ないはカーソン・マッカラーズのあの唄
   おれは探してる、
   うでっぷしのよいおんな
   ひとりのおとこが足をすべらして転ぶ
   ひざもとは孔をみせてる
   みてみればじぶんだ

   女たちのわらい
   血のながれにいぬがいろめく
   おれにしか見えない犬だ
   《おそらくこれがひとびとが恩寵というような言葉で語るものなのだ》
   ジェイムズ・サリスの主人公はそういった
   夜更かしのひとびとに走る窓が叫ぶ
   丘まで足をひろげて草叢をぬければ古い墓場だ
   皺でできた男がこちらへ声をかけてきた
    「若いの、いいできだろう?」
    「え?」
   スコップと台車がうっすらとした
    「こいつだよ。ほかになにがある?」
   墓石がひとつ、人さし指をみせていた、──とても黒い
    「おれは詩人なんだ。どういう意味か、わかるか?」
    まるでわからなかった
    「つまり、あらゆるものを葬るってことだよ」

 

当ホテルの門限は午后十一時までとなっており、

 

   がらすのうちっかわにあるマネキンたち
   かの女らに情慾をおぼえるときがある
   それというのも
   そこに悪意もいぢのわるさもなく
   あぶれものを癩のようにすることもなければ
   いついつまでも責めたてるのも
   中身のないうちで瑕
   をつくりだすこともない
   ましてどやや橋のたもとにいるけものへと
   ふきながしていくこともないだろうから
   たっぷりと眼をやっては過ぎ去る

   だがいまはそんなにたやすい光景ですらも
   とうに売り買いへだされてしまい
   あてを知らないもの
   失いのうちにいるもの
   隠しをからにしたものなんかがおもうのはかれ自身のみ
   つまるところは手折れた茎にみずからのすべてがあるということ
   ほかを赦されないときには鉄柵を握る
   それはふるえとともにあってたなぞこを焼く

   莨をくれないか、ねえ?
   ときおりなにかが声をかける
   すまない、もってない
   喫んでそうなつらなのに?
   そうやって語らいが求められても
   ゆずりわたすわけには決していかない
   ほんのすこしのあいだをあける
   それが話しはじめるとき
   マネキンがひとのように倒れた
   ふたりしてみていたら
   店員の女が遅まきにあらわれ
   ひとでないかのようにかの女を起していなくなった  
   もうじき閉店だ

 

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