みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

november/晩秋の一夜


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 黒がねの馬の蹄のように鳴る吾の革靴よ闊歩、kappo!


 遠ざかるうなだれるかれ晩秋の一夜のように立ちあがれない


 斑鳩のそらよひとひら羽が落ち町全体を包む漆黒


 倦めばただ天井見つめひとときの虚ろのなかをさ迷いし哉


 黒雲のむかうところにたどり着くさまを夢見んぼくの月なり

 
 金平糖嘗めながらまた雨を待つ不安の一抹抱えながらも


 滾る慾──星のない夜を眺めつつ包まれているみずからの熾き 

 
 光る魚──狐火垂れる河面にて幾筋がまた逆らっている

 
 歎く女のまなざし遙か呼び声はぼくのからだを駈けめぐるまま


 しら風やおもざし遠く浮かび来てぼくのこゝろに寄り添い給え


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 鉄の肺──ふくらみきった莨火がぼくのうちにて充ち溢れてる


 長旅は夜の果てまでつづきおり永久の回転木馬たるのみ


 駈けめぐるままにさすればひとびとの跫音はただ大きくなりぬ


 暗澹とするは側溝流れたる水の弾けん音を聴くとき


 暗渠にて奔る水音ノートにて綴る濁音、恥ぢれ、馬識れ


 うなだるるわが天金の書啓くたび架空の訓示受け入れ給う
 

 緞子のように見せる判事よ裁判官よわが魂しいの少女を裁け


 霜月の凍てつく蛙喰らうたび遠き仏国の匂い味わう


 流されて来し昏睡の少女・振袖の真っ赤な金魚おもわせて眠る


 犀星の歌──口遊む「ふるさとは」いったいどこをさ迷うのかと

 
   *


 まくらべに足穂を寄せて憩いたるわれの坐像よ鏡は遠く


 土塊のひとがたばかり一夜過ぐなかに呼吸を吹き込むわれら


 噫、「虹の解体」読むは霜月よ人間機械論おもい暮らすか


 頬寄せて喃語を語る恋人の睫毛のなかに宿る晩秋


 いつになく息を乱して房ごとに密せるきみの遠きまなざし


 睦むとききみが乳房や黒髪に寝息を発てるぼくという他者〈ひと〉


 手を繋ぐそれだけでいいと嘯いていまだ立ってるふたりの遠景


 秋暮れる海よ淋しく泣いておりいまひとひらの葉書を抛る


 しくしくと波は静かにたなびいてぼくのうちなるカナエ・ミヤタケ


 いつか遭えるといいな手をふってユキコのかげに泪をくれてやる


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