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黒がねの馬の蹄のように鳴る吾の革靴よ闊歩、kappo!
遠ざかるうなだれるかれ晩秋の一夜のように立ちあがれない
倦めばただ天井見つめひとときの虚ろのなかをさ迷いし哉
黒雲のむかうところにたどり着くさまを夢見んぼくの月なり
金平糖嘗めながらまた雨を待つ不安の一抹抱えながらも
滾る慾──星のない夜を眺めつつ包まれているみずからの熾き
光る魚──狐火垂れる河面にて幾筋がまた逆らっている
歎く女のまなざし遙か呼び声はぼくのからだを駈けめぐるまま
しら風やおもざし遠く浮かび来てぼくのこゝろに寄り添い給え
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鉄の肺──ふくらみきった莨火がぼくのうちにて充ち溢れてる
長旅は夜の果てまでつづきおり永久の回転木馬たるのみ
駈けめぐるままにさすればひとびとの跫音はただ大きくなりぬ
暗澹とするは側溝流れたる水の弾けん音を聴くとき
暗渠にて奔る水音ノートにて綴る濁音、恥ぢれ、馬識れ
うなだるるわが天金の書啓くたび架空の訓示受け入れ給う
緞子のように見せる判事よ裁判官よわが魂しいの少女を裁け
霜月の凍てつく蛙喰らうたび遠き仏国の匂い味わう
流されて来し昏睡の少女・振袖の真っ赤な金魚おもわせて眠る
犀星の歌──口遊む「ふるさとは」いったいどこをさ迷うのかと
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まくらべに足穂を寄せて憩いたるわれの坐像よ鏡は遠く
土塊のひとがたばかり一夜過ぐなかに呼吸を吹き込むわれら
噫、「虹の解体」読むは霜月よ人間機械論おもい暮らすか
頬寄せて喃語を語る恋人の睫毛のなかに宿る晩秋
いつになく息を乱して房ごとに密せるきみの遠きまなざし
睦むとききみが乳房や黒髪に寝息を発てるぼくという他者〈ひと〉
手を繋ぐそれだけでいいと嘯いていまだ立ってるふたりの遠景
秋暮れる海よ淋しく泣いておりいまひとひらの葉書を抛る
しくしくと波は静かにたなびいてぼくのうちなるカナエ・ミヤタケ
いつか遭えるといいな手をふってユキコのかげに泪をくれてやる
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