みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

僕(今月の歌篇)


   *


 秋の月まばゆくなりぬ半月に世界のすべて託し給えよ


 星の夜に水の魚は光りけり葬場の鐘に跳ねあがりたり


 秋月にあずける恋よひとびとのなかにふと迷えるおもい


 標なき十字路にただ立ちながら炎天に燃ゆる蠅をば見つむ


 秋の雨ひとかげみなのまなざしをただわれと結べる土曜の午


 早秋の光りのなかにさまざまの魚の泳ぐきみのまなこは


 水のないプールのごとくからっぽの水槽抱いて少年泣きぬ


 乾く蓮葬場の果てに生えておりわれ昏々としてそを見つむる

 
 静かなる時代よいまだ死の灰を喰わずして存ることはできず


 遠きわが父の死を望み延々と遠沖泳ぐ少年を見る


   *


 秋風やひとより遅く学ぶゆえわれひとりのみ労役となりぬ


 若者よさらばあかとき来ずものとひとりつぶやいて徒寝のとき


 ぼくというものの卑怯よ秋の陽の光りに曝し羞ずかしめてる

 
 big muff 踏む一瞬の足許を月蝕がみな浚っていった


 星月夜きみの夢へと訪れていつまでもただ手をふってたい

 
 ひとの世の淋しさばかり聴くせつな語るせつなに眠れる鉛


 日本語の律と戯れて日蝕に奪われながら海に佇む


 ひとのなき砂のうえにて口遊むカチューシャの唄ただおぼろげに

 
 雲路追う少女のひとり呑みながら秋霖はただすべてを洗う

 
 かぜに倣うぼくの両の手いつかしらきみをおもって泣くこともなく


   *

 
 だれにでも愛と笑いの夜があり西部の町に涙を忘れる


 恋という終列車を乗り過ごし朝の路上に死ぬる犬たち


 黄昏れるきみの時計の文字盤の小さな疵のような失恋


 長方形の海を夢見る午后はるか遠き町へと砂をばら蒔く


 もどることもない刻む針は高く時計を越えて国境を飛ぶ

 
 漁り火も明ける朝にはいっぽんの流木を抱いて町を歩きたい


 語られることもなかりき物語の標本となるぼくの余生は


 雲走る彼方へ水はまっすぐと河となり海となり雨となる

 
 ぼくの実態は水だ!──水を呑む男はコップのなかへ消えてった

 
 そしていまどこまでぼくの詩篇にはだれが歩いてだれが泳ぐか?  


   *

 

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未完成

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