みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

長篇小説、そして創作について断片集

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3/28

 小説、新たなエピソードを挿入。1頁増える。夜、スケッチを二本書く。

4/10

 小説、加筆。そして終盤の内相を削る。再編輯。阪神震災を追加。実家の現在の外観も。外出、食器拭きを買い、パンツを買い、食料を少し。ノックビンを呑み、禁酒2日め。小説のなかでは過古への決別ができた。現実にできるのはいつか。

4/11

 ジョン・クリーズの自伝。けっきょく出自≠出会いと人脈が才能を発揮させるということだ。残念なことに。

4/12

 小説ようやく終わり。角川短歌の投稿準備も終わり(一首余って消すことになった)。夜はサラダ。大根、こごみ、鶏肉、焼き豆腐、オリーブ。ドレッシングは青じそをベースに蜜柑の果汁、生姜ペースト、アーモンドオイル、タバスコ、コリアンダー
 ジェイムズ・サリス「黒いスズメバチ」再読。抑えた文体がいい。人生について考えさせられる。わたしは長篇を書くことでどう変化したのか。過古を語ることと、現実の行為のはざまには大きな隔たりがある。それを消し去ろうと苦闘したのはたしかだ。だが消えるわけだがない。ただ語ることによって、それらはほんとうに過古になったんだとおもう。いままで何度も、いつでも、どこでも他人の眼、他人の思考に捕らわれて来た。そしてわたしはつねに他人を観察し、内心ずっとかれらについて語ってきた。おもにわるい方面で。しかしその必要ももはやなくなったといっていい。だれもおれのことを見てなんかない。おれについて知ろうとなんてしてない。おれがどんな作品を産みだしたところで、かつての同級生たちがふりかえり、迎えてくれることなどないという、まったくあたりまえのことを受け入れられ、そしてひとり生きるのを諒解したということだろう。

4/13

 またも失敗。小説に使う重要なエピソードを忘れてしまってた。2冊も発注したあとで気づいた。じぶんのなまえについて、楠本君のこと、教育実習生のこと。行きつ戻りつしてふたたびネットカフェへ。1冊のみ発注。いままでの失敗作5冊はテスト版として売ることにした。¥1400+送料。ぜんぶで¥8000ほど。きょう角川短歌へ原稿を送る、しかしここでも勇み足だ。B5とB4をまちがえる。角川はいかれてる、まえはA3だった。どちらにしてもばかでかい。そんなものを総人数で読み回すのである。ほかにも本を買ったりして金を使った。そしてあたらしいカメラに¥1800のフィルムを入れて撮影にでたものの、途中で電池切れ、しかもフィルムの巻き戻しに失敗。フィルムがちぎれてしまった。もっとこのカメラの扱いを調べねばならない。夕餉はアボガドと鶏肉の春雨サラダだ。


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 記憶にあるものを書くことと、実際の行動や出来事のあいだには埋めようのない隔たりがある。わたしはそれを承知で書いた。わたしにとって長篇小説を書くことの意味、それは過古や現実との折り合いだった。多くの過ぎ去ったものたち、心身を蝕んださまざまな怒りと悲しみ、そして破壊、もはやふり向いてくれることのないひとびとへの執着、それらを受け入れ、前進すること。もう幾年も自身を語る方法について探ってきた。かつてはもっと高飛車であったし、だれかをやっつけようともした。人名や固有名詞、それに地名、それらの扱い方すらもわからなかった。ふるいファイルやノートを整理し、かつての短篇、詩篇からも使える部分を探したりした。生来の勇み足のために未熟な原稿を何度も入稿してしまった。少なくとも1万はどぶに棄てた。納得のいくところに着くまでに2ヶ月と6日と半分かかった。文章は手直しするたびによくなった。過古の記憶も書いてる最中はともかく、歩いたり、眠ってるときにおもいだされた。ドキュメンタリーやロードムービーを撮るみたいにわたしは書いた。ただ残念なことに記憶の断片化は激しく、文体の統一や、整合性といった面では随分と苦戦せざるを得なかった。やはり現在と過古、記憶と記述はそれぞれまったく関係のないものであると、おもい知らされるのである。今回の作品で得た技術を使って早く短篇や脚本を書きたいのはやまやまだが、わたしには足りないものが多くある。多すぎるほどに。歴史、地理、自然、数学、哲学、科学、疫学、かぞえたら切りがないほどに。建築についての知識、物質のなまえ、人種的特徴、異なる文化圏への興味、見えるもの、聞えるもの、味のするものに対しての表現手法やなんか。ともかく学ぶ必要がある。焦ることはないが、わたしはもうすぐ34だ。可能性は限られてる。絵も音楽も写真も好きだが、それらとも折り合いがいる。文章とちがって金もかかるし、時間はもっとかかるだろう。先の見えない旅だ。
 わたしはひとりの未熟な作家、あるいは藝術家として、この1冊がめぐりめぐりってだれかを励ましてやれれば幸いだとおもってる。そしてなにかをはじめられたらもっと幸いだとも。「マルドロールの歌」の冒頭ほど大袈裟でないにしても。
 

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 いままでいろんな文藝投稿さいとで、うだうだいってきた。けれどもけっきょくわたしが創作について、おもに詩について助言できるとすれば以下の通りだ。

 ・日本の古典を読むこと(流し読み、拾い読みでもかまわない、積極的に模倣する)
 ・短歌・俳句で凝縮力を高める。
 ・音のひびきを声にだして確認する。
 ・字面の絵画的構成。

 

 

黒いスズメバチ (ミステリアス・プレス文庫)

黒いスズメバチ (ミステリアス・プレス文庫)