みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

旅の写真帖:青森前篇

9/16

 

 

 

 朝、上野から青森へ。着いたときに夜の8時だった。まっくらななか、月を見る。手のひらにぢっと汗を掻いてた。

  

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 夜明けまでを市内唯一のネットカフェで過ごす。旅草も乏しいなか、朝の町をうろついた。駅前の公園ではひとり旅の男が寝袋で寝ていた。こちらはジャケットしかなく、寒くてしかたなかった。

 

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 朝9時、佐々木英明さんと落ち合う。かれの車にゆられて三沢まで。2時間ほどかけてむかう。帆立が土地の名産らしく、いたるところに幟や看板が立ってる。

 

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 寺山修司記念館。ほとんど写真を撮らなかったのが口惜しい。館内を見、佐々木館長とともに昼餉、そして温泉、そのあと三沢市内のホテルに一泊。たびたび奢ってもらい、なんといったいいのか、わからないぐらいよくしてもらう。

 

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 記念館をでて温泉へむかう途中のこと。市街劇の出演者が稽古で泊まっていたという温泉旅館に寄った。「歴史のあるものなんかここにはない」と佐々木さんはつぶやくようにいった。池も滝も建物もすべてあぶく景気で、東京の会社に造られたものだといった。車を駐めてかれは降りた。渋沢栄一を祀った神社と移築された邸宅があった。

 「気狂いじみてる」と佐々木さんはいった。

 「木も一緒に移したみたい。──でもここにあるといんちきという感じがする」

 車をだして旅館からでると、駅が見えた。そして古い線路が朽ちたままになっているのにも。十和田駅だった。

 「あそこに製材所があって小さいころ、寺山さんの遊び場だったんだ」

 「あの 駅、もうじき毀されるらしいですね」

 「うん、再開発でなんでもなくなっちゃうんだ。あそこは蕎麦が美味しくてひとがよく来るんだけど」

 ガソリンスタンドで給油を済ませ、温泉へ。その道すがら、寺山修司が小学生のころ、かくれんぼをしたという神社や墓場、古間木小学校の跡地などを案内してもらった。かつて寺山母子が棲んでいた場所や、寺山食堂の跡地にも。寺山修司がどんないじめを受けていたかや、かれの母親がどうして九州にいってしまったかを問わず語りのように佐々木さんが話してくれる。小雨の降りはじめた三沢はずいぶんと淋しい顔をしていた。

 三沢のアメリカ村を通り過ぎる。東京の会社による再開発のなれの果てを見る。そしてプリンセス・ホテルにチェック・イン。わたしはずうずうしくも泊まらせてもらった。夜、二軒の呑み屋を佐々木さんとまわった。まずはバラ焼きを喰い、麦酒を呑んだ。つぎに焼き鳥屋へ。テレビでは皇室特集がやっていた。

 最後に全国チェーンの居酒屋で呑んだ。話は詩や文学についてのことが多くでた。わたしはべらべらと酔ってしゃべりすぎてしまった。そういった話題については黙っていたほうが幸福だというのに。好きな作家や、影響を受けた作品、寺山修司作品に触れたきっかけなんかを話した。

 「中田くんは、だれにむけて書いてるの?」

 「それは、読者としかいいようがないです」

 「それじゃあ、だめだよ。詩というものはまずぼくを書いて、それからきみを書かなきゃ。読者じゃだめだよ、詩は二人称で書くんだよ。三人称であってはいけないんだ 」

  わたしは連日の飲酒と移動のせいか、だいぶ参っていた。おもったよりも酒に打たれてしまい、なにをどう話せばいいのかわからなくなる。佐々木さんは森忠明との出会いや印象についても語った。ハイティーン時代の作品を衝撃だったといい、はじめて逢ったときのことも精しく話してくれた。

 「ぼくからすれば森さんは詩人じゃなくて作家だよ。森さんはちゃんと世間と渡り合ってる。でも詩人っていうのは逃げてしま うんだ。ぼくもちゃんと渡り合わずに逃げてしまった。詩人は成熟を拒絶するところがある。ひとはいつか成熟しなくちゃなら
ないけど。寺山さんもそうだったし、ぼくもそうだし。谷川俊太郎さんもそうかも知れない。森さんの弟子だったら、小説とか童話とか散文を書いたほうがいいよ」

 「最近、詩が書けないんです」とわたしはいった。「短ければ短歌や俳句になるし、長いものは散文になっていしまいます」 

 「詩で読んでいた中田くんのイメー ジと実際会う中田くんとがあまりちがってて驚いた。もちろんいい意味で。もっと詩にあるような攻撃的なひとかとおもった」

 ホテルへの帰り道、佐々木さんはいった。「ぼくや森さんがあなたを引っぱっていくことはできない。ぼくはもう70の老人だし、こんな年寄りに期待するようじゃだめだですよ」まるで慢心を見透かされたようで、わたしは頷きながら「このままではいけない」とおもい、ホテル・プリンスで台風の夜を過ごした。

 

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方言詩集まるめろ

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