みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

長電話

 


 アルベール、おまえは酒の呑みすぎだってきみはいった
 おれはアルベールなんかじゃないって、ぼくは返した
 受話器のむこうから、きみの恋人の声がしてた
 かの女は怒ってた、――長電話、やめて!
 でも、ぼくもきみもたっぷり2時間は喋った
 喋って、喋って、喋りまくった
 どうしたものか、ことばの切れ目が見つからない
 きみが語るジャズ、そして映画
 おれが話す、文学についてのたわごと
 リー・マーヴィンアダム・ドライバー
 マックス・ローチとリチャード・ウェイト
 レオス・カラックス中平康
 いつのまに電話は切れて
 ぼくはまったくひとりになる
 なんだかぜんぶが恥ずかしい気分で
 台所に立って、水を入れ、手を洗う
 アルベールはきみだ
 泥濘の道でいつまでも
 手をふってるのはきみだよ、アルベール
 ぼくは腹ばいになってアルコール中毒についての本を読んだ
 窃盗症についての本を読んだ
 いままでじぶんがやってきたことの業深さや、
 繁みのなかでたったいま芽吹いたつぼみのような事実について、
 じぶんなりに考察が必要におもえたし、
 そろそろじぶんを実測する気持ちが湧いてきたからだった
 深夜までたっぷり、おのれを苛んだあと、
 またしても電話が鳴った
 アルベール?――ぼくがいう
 アルベール――きみが答える
 あした、河原まで歩くよ、
 きみがいった
 リャマに気をつけろとぼくはいった
 もしも、ときみは切りだす
 いま、ここにスコッチがあるんだけど、
 いまから持っていったら怒る?
 いいや、とぼく
 でも、とぼく
 たぶん、きみのことをなによりも軽蔑して、
 あの長い失業時代よりも惨めなところに
 追いやってしまうだろうな
 きみは笑って、切ってしまった
 夜が朝になるまえに
 ぼくは横たわり、
 自身の実態に失望しながら、
 緑から金色へと変身する夢を見てた。