みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

サービスエリアにて発見

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 火柱を跨ぐ少女や秋白し

 

 夜ぴって書き終わらないト書きある

 

 訓戒受けまっすぐに蛙喰う

 

 ぬばたまの夢よ凾にてわれひとり

 

 支那人の店員われを着服す

 

 けもの草質草旅草草枕

 

 パセリ散り屍肉のうえを湯気あがる

 

 花々を弔いながら楡死せり

 

 暗がりの読経の声と夕餉して

 

 草色のルード・ボーイや蠅いずこ

 

 夜行バス一台ばかりおなじ顔

 

 友引の鍵穴見つむ少年立つ

 

 賽をふるたが一生の運のため

 

 別人のふりして通う鮨屋かな

 

 ひと攫い飛ぶ夢を見ん冬至なる

 

 房ごともなきまま老ゆる血統書付

 

 探偵のひとりの頭蓋さ迷いぬ

 

 ファルファッレ啄むなかで死亡記事

 

 足長き女ひとりや栗拾う

 

 穴深き秋から冬へ掘り進む

 

 墓穴も秋から冬へ掘り進む

 

 月光のドライヴひとり行方不明

 

 遠き夏誕生石も砕けたり

 

 流し雛流し忘れて暮るるまま

 

 百凡のロックンロールやがて消ゆ

 

 黄葉落ちふと憐愍の薄化粧

 

 くちびるの肉厚ぶりに茜差す

 

 汽笛鳴る一生のうち一度だけ

 

 忌中告ぐ葉書の幾多竈に投げ

 

 書割りを歩くごとくの散歩する

 

 中古るの産着の襞によぎる死は

 

 喃語とてもはや虚しく犬擲てり

 

 われ統ぶる十一月の晩の虫

 

 私道にて通行禁止河へ投げ

 

 蟹歩く月面だれの墓標かな

 

 秋月のおもかげ午の空に見る

 

 潮の音へ至る道すがら自死の犬

 

 浦島のように佇む一年草

 

 古井戸にするりと落ちる小銭入れ

 

 乳足らずの母の貧しき時計売る

 

 ぶらさがるひとの恩義やしだれ草

 

 多年草実りなきまま燃やさるる

 

 柿実り嬰児殺しの記事が飛ぶ

 

 東京や滾滾として刹那ゆく

 

 月という女の顔や宇宙線

 

 忘るるという字面はもの悲し

 

 われひとり罷り越したる御地の雪

 

 魚石の断面光る夜の宿

 

 ウォーホルの複写のかげの万華鏡

 

 喪失ということを識る十七音

 

 みずからの翳まっすぐに霜払う

 

 酒場町宿町充る枯るる梨

 

 落馬して騎手遠ざかるダート、雨

 

 連れあいもなくて小雨ぞ降りかかる

 

 凡夫たるたとえば冷ゆる鰊蕎麦

 

 犀を飼うわが幻想の旅枕

 

 星暦を数えて眠る少年の旅

 

 ふり下ろす手斧の柄の木の雫

 

 秋晴れの尋ね人欄立ちどまる

 

 ひとりいてひねもす鍵を眺めやる

 

 子供靴サービスエリアにて発見

 

   *

 

 内田美紗に影響されて書いた。

鉄砲百合の射程距離

鉄砲百合の射程距離