みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

初秋'19

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 詩を書くみたいに小説が書けたらいいのにっておもう
 もうずいぶんまえから「灰は灰へ還す」という題名だけあって、
 それはきっとながい片思いと失恋についての、
 ちょっと滑稽で、警句の混じったものになる、
 そうおもってる
 神戸市内では夕暮れから雨、
 雨という修辞が降る
 もう秋だ、
 空気がしんみりしてる
 比喩とのためらいのなかでぼくは立ち、
 窓のあたりでつり下がる
 下げられるのだ
 麦の物語でも読んだほうがいいのかも
 ぼくがふたたび小説を書くには
 けれどもそのおもいとは裏腹なことに
 鰯の痛覚が全身を貫き、
 布引交差点をファミリーマートにむかって突っ切る
 そして再生産された情景の数多に見えなくなったぼくの小説が、
 ゆっくりと物語になっていくんだよ
 それがかの女にとってどういう意味を持つのか、
 そんなことには興味がない
 ぼくを閉めだして、
 拒絶したあの女がいまさら、
 なにをぼくにおもったりするというのか
 ぼくを灰にして、
 ぼくのすべてを土に還して、
 いったいかの女がいまさらぼくについておもうことがあるだろうかって、
 ぼくはかぼやいて、
 ふたたび小説を書こうとする、
 虚構と欺瞞に耐えながら、
 森のなかを歩き、
 祠のあるところまでいこうとする、
 やがてそんなものがないことに気づき、
 みずからの手でそれをつくらねばならないと気づくまで、
 ぼくはかの女についてのすべてを雨を主体にして書く、
 雨がもうじき止むだろうとする、
 仮説を疑いながら。