ぼくはしばらく廚に立って冷蔵庫に鯖があるのを期待した
夏の午后おそくぼくは帰ってきてそれを望んだんだ
でもそれは叶わなくなった
夕暮れの使いが
ぼくを閉め出したから
だからなんだって
ってきみがいう
かつて母が父を扱き下ろしたみたいに
いまだに鳴ってる固定電話
不在着信は届かない
ぼくがだれであろうとかまわないみたいにして
かさなって、そして離れる
滝のほうにむかって、
猪が河を昇る
とにもかくにも大きな潮がぼくのなかを通過する
きみのなかに大きな鮭のまぼろしが写る
いつだったか、ぼくはいった、
きみはもういないと
スタンドウェイの役者に見せて
すべてが透きとおって見える
雨が降る
アメリカと名づけられた雨が
降る
祈りはない
昏い室のなかで
まだ露出されてない部分が
ふくれあがって、
そしてなにもかもが見えなくなる夜ふけ、
ぼくはきみの廚に立って、
冷蔵庫をたしかめる
なにもない、
そして雛菊みたいな匂いがずっとしてる。