みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

a fact and dance

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fact 

 午前8時から午后4時と半分までおれは港湾労働をやってた
 でもある瞬間、なにも信じられなくなった
 かれらがなにをおれに求めてるのかが
 わからなくなってしまった
 おれはうろたえて
 バナナの凾を落としてしまった
 だれかがおれを見てる
 なにも信じられない
 冷蔵倉庫はうす暗くて
 冷房が寒いくらいに効いてる
 おれはおもった
 見つかってしまったと
 バナナの緑があまりにも緑で、
 それを計量したり、包装したりする女たちは青い
 高い悲鳴みたいな音を発てながらフォークリフトが走る
 おれはようやく凾をあけてバナナをテーブルに並べる
 どうしたものか、心が入らない、どうして、
 どうしておれはこんなところにいるのかが曖昧になって、
 おれはまたうろたえる
 どうやら魅入られてしまった、
 たったひとりおれだけが
 不信と倦怠、
 そして猜疑にすら
 なんだか裸にされたみたいに地面と、
 そして突きでた腹を見る
 仕事が終わってみなが帰りを急ぐ
 おれがウィルキンソンを呑みながら、
 列車にゆられ、
 室にもどって考える、
 いままでしでかしてきたことを
 それについて詩を書く
 いや、
 それよりも
 かれらがおれになにを求めるのかを知りたい
 おれは撰ばれてしまった
 なにがおれを撰んだのかがわからない
 とにかくじぶんの詩から眼を背けたくなって、
 おれは生田川沿いの歩道までいって、
 枇杷の木を見る
 その木だけが真実、そして事実、そのものだった


dance

 おもいだしてみればそれが失意のはじめだったかも知れない
 かの女がもはや会えるはずもないことを知っておれは傅いた
 そんなことをおもいながら、
 事実ということのそっけなさをおもう
 ながいためらいのなかでおれはすべてを手放した
 なにもかも好きにすればいいいだろうって、
 ひとりごとをいいながら過ぎ去ったものたちから
 じぶんを切り離すことになった
 清掃車がおもてをいく
 濁点を垂れ流して
 表通りへ抜ける
 やがてひとびとが路次を歩いていく
 真夏の声、そして浸透する暑さ
 風景が立ちあがっていくんだ
 養老院のむかいで
 おれは窓を眺め、
 朝という朝のありきたりな気怠さを感じてる
 失った若さと、残された贅肉を抱え、
 失意のはじまりについて考察をめぐらすとき、
 そのときだけ、かの女のおもざしがさっと脳に射し込む
 かの女のみじかい髪、少年性、そしてやわらかい声を
 もはや、それはおれにとっての画材になり、
 詩の起点になり、つくりもののなかで老いてゆく
 もうどうだっていい、
 こんな哀傷からは遠くはなれて、
 ひらき直りたい
 おもいだしてみればそれが失意のはじめだったかも知れないけど、
 いまとなっては太った中年のたわごとでしかない
 いま森のなかで実をひらく果実、
 いま水となって溢れる感情、
 いま神社の手水となって充たされる過古、
 すべてをおれのために捧げろ
 そして惜しみなく奪え
 おれ以外と蚕食しながら、
 8月の果てまで、
 踊ってな