'14年にモノクロ印刷にて出版し、その後'17年に再編集してカラー化。ISBNも取得。撰と序文は森忠明、写真・デザインは著者。
ふるえ
ふるえをとめてはいけない
とめては旅路がみえなくなるから
ほら
ぼくの疵口をごらんよ
これがたったひとつの標べなんだ
貨車が通りすぎ
厩の戸がひらく
馬を盗もう
そいつでどこまでもどこまでも
どこまでもいくんだ
そうつぶやきながらぼくは脱出の夢から醒める
そうしてトランクを掴んでは
からっぽのそいつを抱く
「天使はポケットになにも持っていない」
ダン・ファンテの物語はそう告げて
娼婦たちのコーラス・ラインに手をふった
でもいくら路をいったところで
出会えるものはもうなにもないんだ
あの子のためならなんでもできるって、そうおもったころもあった
いまぼくにできるのはすべてをうっちゃらかしちゃって
ふるえとともに行路につくこと
あるいはハンプティ・ダンプティになって
塀のうえを踊りつくすのみ
点描
for y
かつてあったらしいもろもろを求めてながら
点をたどったところで
なにもない
わたしはあたらしい雨を待つ
やもめ暮らしの男だ
ひと昔か
それよりもっとまえのことにあたまのなかが充たされ
とてもじゃないがそいつは追いだせない
みじめったらしく
とっても醜いやつ
過ぎ去ってもはや掴まえることもできない過古と終わりなく話す
だれかがわたしを憶えてるかも知れない
でもそれは気休め
たしかに13年まえの4月
まだ15歳
駅ビルでわたしはかの女から声をかけられた
あかるい声と
とても素敵な笑みで
でもそのときおもうままに応えられなかったみじめなやつだ
すごくうれしくて
すごくこわくなって
逃げだしてしまった
かつてあんなにも好きだったのにもかかわらず
きょうもあたらしい雨はやってこなかった
かの女への手紙をいくら書きあげても
届けるあてはない
通りを警笛が鳴りやまず
5月の窓を閉じてわたしは横たわる
かの女の20歳すらも知らず
そんなことがとってもくやしい
どうしてなのか
清掃人
少なくとも
かつてあったものはそのかげを残してるだけだ
ものはみな失せ
手づくりの神殿のなかへと
そしてそいつは清掃車が運び去ってしまった
ありもしない裏通り
架空のカウンターで愛しいひとたちがいなくなっていく
それはまちがいなくみずから撰んだ札だった
急ぎ走りでとめることもできない速さをもって
おれは自身をおきざりにしたんだ
そいつのあまりの惨めさで
手に入れられるのは中古るのやすらぎ
せいぜいのところオープン席三十分のそれ
欲しいとおもったものはそれぞれ納屋の仕方で燃え
ゆっくりと遠ざかる景色
田舎の国道で
天使どもがはげしいおもづらでおれをどやしつけ
中古車センターだけが輝かしい
路上に擦り切れ
かぜになぶられた
このおれが手にできるのはテニスンの短篇ですらない
けっきょくは別離
自身を運び去っていく清掃人のような
ありかただけ