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老木のごとき時間を過したる夕暮れまえのぼくのためらい
きみをまだ好きだといいてかりそめの証しを立てぬ流木の幹
涙という一語のために濡れながら驟雨の駅舎見あげるばかり
いっぽんの釘打ちひとりさむざむと弟だったころをおもいぬ
薪をわる手斧のひとつ殺しをばおもいながらに父を見つむる
草の葉のなまえを調べ図書館の暗がりはいまぼくのものなり
列車には男の匂い充ちたれて雨季も来たれり新神戸の町
一台の貨物車過ぎて現れる怪盗以前の20面相
フロントグラスに突然やって来たかの女の生霊にキスを
遠ざかるぼくの憧憬ふたたびはないものとして背中を見せる
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夕暮れや憂べなるものを焼き給えぼくの地平を侵し尽くして
麦秋至──愛なきゆえに燃えさかる花に乱れるわが物語
姉妹みな葬りたし断崖の彼方の星を撃ち落とすごと
栄光と呼べるものみな蔑めるわかち得るものなき青年は
空中散歩してみたいとかぼやくわが娘という不在
おもいはせる知らない少女のことなどをエレベータのなかでしばらく
磔刑に処される父の夢を見むまどろみのなかぼくは存るかな
大鴉町を横切る真昼間よやがて裂かれてしまい給えよ
家族欲す憐れなるわが魂しいの救われざるを月に見ており
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亡命の猫いっぴきに餌をやり詩行ふたたびわれに息づく
戯れに魚の頭落としたる猫の営む理髪店にて
神の子ら踊るつかのまに毒を盛るひと殺したるわれの夢なり
きみの名をいまだにひとり口遊みうなだれるのはいつ終わるのか
遠き父母与うるものもなきがままぼくは老いて死んでいくのみ
ケチャップをかけすぎて緑なる眼のまえを真っ赤染める
光降る貧窮院の壁に凭れ酒という死を呑みつづけるかな
きみを求め Shadowplay に戯れる両の手がいつか飛んでいくまで
絶縁せし友の夢見るはるかなる交感のときを忘れたましめ
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