みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

夢と雨の日曜日 [2018/06]

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 老木のごとき時間を過したる夕暮れまえのぼくのためらい


 きみをまだ好きだといいてかりそめの証しを立てぬ流木の幹


 涙という一語のために濡れながら驟雨の駅舎見あげるばかり


 いっぽんの釘打ちひとりさむざむと弟だったころをおもいぬ


 薪をわる手斧のひとつ殺しをばおもいながらに父を見つむる


 草の葉のなまえを調べ図書館の暗がりはいまぼくのものなり


 列車には男の匂い充ちたれて雨季も来たれり新神戸の町


 一台の貨物車過ぎて現れる怪盗以前の20面相


 フロントグラスに突然やって来たかの女の生霊にキスを


 遠ざかるぼくの憧憬ふたたびはないものとして背中を見せる

  
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 人狼の夜話を聴きつつ眠りたる架空の息子の羅針盤かな

 
 夕暮れや憂べなるものを焼き給えぼくの地平を侵し尽くして

 
 麦秋至──愛なきゆえに燃えさかる花に乱れるわが物語

 
 姉妹みな葬りたし断崖の彼方の星を撃ち落とすごと

 
 栄光と呼べるものみな蔑めるわかち得るものなき青年は

 
 空中散歩してみたいとかぼやくわが娘という不在

 
 おもいはせる知らない少女のことなどをエレベータのなかでしばらく

 
 磔刑に処される父の夢を見むまどろみのなかぼくは存るかな

 
 大鴉町を横切る真昼間よやがて裂かれてしまい給えよ


 家族欲す憐れなるわが魂しいの救われざるを月に見ており


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 亡命の猫いっぴきに餌をやり詩行ふたたびわれに息づく

 
 戯れに魚の頭落としたる猫の営む理髪店にて


 スラングの世界よ友を持たぬぼく麦秋のなかに身を埋めたきかな 

 
 神の子ら踊るつかのまに毒を盛るひと殺したるわれの夢なり


 きみの名をいまだにひとり口遊みうなだれるのはいつ終わるのか


 遠き父母与うるものもなきがままぼくは老いて死んでいくのみ


 ケチャップをかけすぎて緑なる眼のまえを真っ赤染める


 光降る貧窮院の壁に凭れ酒という死を呑みつづけるかな


 きみを求め Shadowplay に戯れる両の手がいつか飛んでいくまで


 絶縁せし友の夢見るはるかなる交感のときを忘れたましめ


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