みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

神がふるい世界にもどってきて

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 おれには堪え性というものがない。いまの気分じゃ借りてきた稲垣足穂も読めそうにない。おれはspotifyで音楽を聴きながら、こいつに取りかかる。気分はよろしくない。金が尽き、兵糧もわずかななかで、じぶんの魂しいとやらの臭いを嗅いでいる。こいつがかわいい女の子の下着だったら、なんてことは考えない。いまさっき、ネルソン・オルグレンを手にしたけど、すぐに降ろしてしまった。きょうはなにか金策をするか、それとも残りものを喰らって我慢をするかだ。もうずっとまともになにかを読んだためしがない、まともに眠ったことも、まともに喰ったこともない。
 先週の17日だったか、おれはデモ音源を発送した。3つのレコード会社へ。いまだ返事なしだ。どうしてこんなにも老いて、唄ものなんてつくったのか。もっと早くやりたかった。それでもずっとおれは不運のなかにいたし、檻つきの路地裏にずっといてなにもできなかったからだ。それに詩がまったくウケないとあってはどうしようもないから、ほかのことに手をだしたというだけだ。わが師は「短歌にしぼれ」という。しかしおれのなかでいちばん遅れてやって来たそいつをいまだにおれは正視できない。せいぜいのところ、ようやく文法書「短歌のための文語文法入門」を買ったというところ。また「今月の歌篇」と題したシリーズを書くつもりはある。実際、もう50首はつくったものの、主題が見えない、なにをやり遂げようとしているのか、じぶんでもさっぱりだ。いくつか最近の歌集も借りてはみた。どれこれも口に合わなかった。けっきょくかつて好きだった歌人たちを読み直し、その歌人たちから繋がりを辿って読むしかないのだろう。新鋭短歌なんざ読めたしろもんじゃない。
 とにかくだれかが、なにかがこのおれを受け入れてくれるのを待っているという現実。そのために詩を書き、短篇を書き、中長篇を書き、曲を書き、絵を描き、写真を撮り、焦りに焦っている。夏には35になるし、B型事業所にもいけてない。デスクワークよりも倉庫番のほうがましだ。それにいったい、いまさら働いてどうなるのかとおもう。逃げだしたいのか、進みたいのかもわからない。とにかく詩歌はウケない。喰い扶持にもならないと来る。だから小説だ、音楽だ、絵だ、写真だと脳天を熱くしてしまう。現代短歌、文藝新人賞、神戸市展、清里ヤングポートフォリオにむかって──そうともみながみな博奕だ。それでしかないんだ。おれは復勝狙いで突っ走ろうとしている。ブコウスキーなら軽蔑しただろう。けれども藝と無藝とを取りちがえた憐れなおれは、すっかり年月の経ったこの現実のなかで、悪あがきするのが精一杯なのである。もちろん、けっきょくはトリガミになってしまうのが落ちであるのも承知だ。おれを受け入れてくれるものなんかないのは、てめえがいちばん知っている。それでも幾らかは奇特なひとがいて、作品を買ってくれることもあるのだが、けれども小銭が入るだけのことだ。気がつけばもう2月がすぐだ。おれは中篇小説のためにメモを綴る。物語はストーリーでは動かない。一見意味のないショットから産みだされる。おれは意味を求めない。作家はわからないから書くのだ。

 

  生まれついての貧しさ、そしていまだ勝ったことがないから、
  これからも勝つことはないだろうとする懶惰

  おまえはいつも正直もの

  だからおれには本が読めない、

  だからおれには敗北しか手にすることはできない

 

  魂しいの、

  輪郭をつづいってるのは

  実は黄金色の液体に過ぎないんだ

 

  死よ、
  おまえに訊く
  意味はいったい、いつ到着するのか
  そいつをおれはいまも待ってる

  のだが

 

  なんとなく、ノートに「象の墓場」と書き殴った。たぶん象も墓場も登場しないだろう。それでいいのだと、おれはおれに伝える。音楽をTom waitsに切り替えた。「night on earth」。──じゃあな。