みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

カセドラル再訪

 

 冬のあいだずっと
 アルコールという月光液から遁れようとして
 嫌酒薬を呷って、
 星々との口唇期を愉しもうとしてた
 藁を葺くひともないふるさとの、大聖堂
 そいつは父のつくりあげた家という夢の汚物
 そいつは父のつくりあげた家族という夢のむくろ
 おれはどうしたわけか、いまだに猫の跫音ってやつを聴いたことがない
 そうか、きみもそうだったか
 どうりでソフトがあまりにも、
 青い

 

 神戸市北区道場町字南山にて、
 あるいは生野高原にて、
 またあるいは旧宝塚温泉団地にて、
 冬の根を掘る
 あたらしい家が
 あまりにも多すぎる
 かつてゆうじんだったひとびとの家を過ぎる
 おそらく愛なるものが生まれるのはその肉体が腐敗を拒絶した一瞬
 どうりでおれには愛がない、
 ずっと腐敗と滅亡を受け入れ、
 為す術もなかったんだから

 

 「カセドラル再訪」っていう短篇をいつか書こうとおもってる
 おれはかつての姉の室で不眠の夜を過ごしながら、
 たったひとつのおもいに凭れかかる
 さようなら大聖堂よ 
 さようなら人形の家よ
 ここにはだれも棲むことはできない
 だれも憩うことができない
 きみはいまどうしているだろう
 麦色の手袋をしてハンドルを握ってるのか、
 はたまたきみ自身の大聖堂をつくりあげようと銀色の梁を掲げてるのか
 去っていくものがあまりにも多すぎる
 棄てられてしまったものがあまりにも多すぎる
 シアン化合渓谷を抜け、
 二丁拳銃を降ろせば、
 経験と、
 北半球のノートをたずさえて、
 あしたから、おれはきみのなかにもどってくるよ。