みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

かたぶく、かたむく(「古今和歌集」巻第8/離別歌より)

 

   *

 そうして水銀の、
 滴りを
 ガラス管のなかへ
 かつてぼくらが若かったとき、
 撹拌機のなかで出会ったことを懐いだす
 あかときの声、
 天雲の、
 褥
 旅立つ春をどうかお赦し給えよ
 かたぶき、かたむく
 ──わが梁よ奪え
 ──わが棟よ踊れ

   *

 果てのない管をたどって
 ぼくはかつて、
 憑かれたようにかのひとの名を呼んだ
 起きもせず、寝もせず夜を明かしては
 ほかのひとびとは生きたまま春霞して
 やがて水銀のなかへ帰っていくのです
 かつてぼくらが老いてしまったとき、
 きみのなかの、
 上の句、
 かたぶく、かたむけ
 ──きみが閂よ放て
 ──きみが門よ立て
 そうしてぼくは口遊むんだ、いまでも。
 ずっとどこかにきみがいるみたいに、いつまでも。 

   *

  雲ゐにもかよふ心のおくれねば、
  雲ゐにもかよふ心のおくれねば、
  雲ゐにもかよふ心のおくれねば、
  雲ゐにもかよふ心のおくれねば、 
  雲ゐにもかよふ心のおくれねば、
  わかるとひとに見ゆばかりなり、
  わかるとひとに見ゆばかりなり。

   * 

 

 

古今和歌集 (岩波文庫)

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新版 古今和歌集 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)

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