みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

詩へのリハビリテーション#02

幣/みてぐら

 
 みかどの統べる、
 あまねく神の、
 うたごえの、
 みそひともじは
 やがて妙なるひびきを失い、
 あらゆる寵から転げ落ち、
 盲いた男系の妄信から醒めず、
 滅びのときを待つばかり
 かれはけだし神官であり司祭であり、
 ひとりの老いた夫であり、
 父であり、祖父である
 みなはかれらを奉りながら
 かれらを縛りあげている
 辞を奪い、
 暮らしを奪い、
 なおも愛していると叫ぶ
 かれらかの女らはわたしたちの
 ささやかにして聖なる生贄なのだ
 だからこそわたしたちはかれらが自由になるのを赦さない
 わたしたちの結束のために
 わたしたちがひとである契りのために
 またはかつて討れた蛮族の眠りのために
 かれらかの女らはわたしたちの
 ささやかにして聖なる輪郭であり、
 日の本の真空地帯なのだ
 御旗をかかげて車はやがて楽園へと急ぐ
 それは虚妄の砦、
 あるいは聖なる檻
 かれはぼくたちの王じゃない、
 かつて青森県三沢市で老詩人がつぶやいた
 縄文のまなざしは受像器の幣を射貫き、
 夜がすべてを覆い隠した
 閂を砕き、
 門をひらけよ
 そしてかれらかの女らに
 ほんとうの肉体を
 ほんとうの魂しいを与えろ
 もはや神話の時代は終わった
 だれかと手をむすぶのにもう生贄はいらない
 神はもはや人間の土地には降りては来ないのだから
 解き放たれろ、
 あらゆる檻から
 軛から
 かつて神であったという救いがたい事実のために
 これ以上かれらかの女らを追いかけるな
 おれはたったひとり、
 はらからであるあなたがたに背をむける
 生贄が欲しいのなら、
 あなたがたがなればいい
 いまこそみかどを葬り、
 制度を殺し、
 あまねく神の、
 うたごえの、
 みそひともじに滴れる、血を洗い、
 呪詛を眼前にして、
 うちなる鬼神たちの声に耳を
 耳を欹てていろ


二宮参詣

 
 秋の嵐はなにごともなく去ってった
 ぼくは本をひらき、腹ばいになる
 むかいの養老院で男が如雨露の水を撒く
 老人たちが嘴で車を突く
 かつてチェスタトンはいった、
 詩人は正気であり、狂気を孕んではいないと
 狂気に陥るのは自己を信じるもの、論理を突き進むものであると
 けだしぼくは自己を信じない、そして論理を迂回してきみの戸口に唇をつける

 冷ややかな秋の朝だ
 臍下はいつも忸怩たり、
 あらゆる債務と労役を忖度する、
 桎梏!
 かつて枇杷の木が燃やされたのを懐いだしながら、
 ぼくは病院にむかって支度をはじめる、チェスタトンを閉じる
 生きていてはならないということ、そして生きようとすること、
 両方の手にそれらを乗せて、あるいはためらないながら、
 アパートメントの階を降りる、
 やがて陽の光りが猛スピードで追いかけ、
 そしてひとりの男がぼくの肩に触れる、
 ラジオの声が語る、
 「勇気とは死に急ぐかたちをとりながら、生きようとする強い欲望だ」

 

参考BGM


fOUL Husserliana

 


fOUL - Dostoevsky Groove

 


fOUL - 裁判所の架空の訓辞

 


fOUL - fOULの休憩

 

正統とは何か

正統とは何か

 
歴史とユートピア

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煉獄のなかで

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