みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

初秋のスケッチ

 


 初秋にて現るるかな死せしひと

 

 秋暮れる雲間にピアノ聴きており

 

 月蝕や喪われゆく未亡人

 

 秋霖の烈しき真昼水を呑む

 

 水にふくれる陽光もやがて秋

 

 遠き火事果肉のような匂いして

 

 さすらえるもののみこそ秋の月

 

 犀を飼うわが幻想よ竹の色

 

 瘋癲の死ぬる秋あり保護室

 

 縁日の世界も終わり万華鏡

 

 秋月や連れて歩いて迷うまま

 

 陽もやがてみじかくなりぬかげの意味

 

 鳥影や地上に映える黄葉なり

 

 亡国の猫いっぴきよかげ長き

 

 砂充ちて閉ざさるるかな海水浴場

 

 夜風冷え姉の死后にて眠る犬

 

 骨を透く秋雨ばかり検査にて

 

 少年期遠きおもかげ秋祭

 

 階をのぼり来たればもう九月

 

 訪れて消ゆる初恋芒原 

 

 河に群るる蜻蛉のなかに日暮れあり