みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

よりかからないでください。──極私的・エレファントカシマシ小論

 

エレファント カシマシ II

エレファント カシマシ II

 



 《よりかからないでください》──これは、'88年「PATI-PATI」誌上に載ったエレファントカシマシ「THE ELEPHANT KASHIMASHI Ⅱ」の広告コピーである。深読みすれば、これはきっと「おまえらを励まし支えるような気楽な歌ではない」ということだろう。わたしがかれらを知ったのは'97年、「今宵の月のように」からである。わたしは13歳だった。かれらの素直な声と演奏は、当時のシーンの装飾過多な世界から遠く、そして心地よいものだった。はじめてのライブは'03年の"BATTLE ON KOBE"で、これは元スライダースの村越とのジョイントだった。わたしが熱心に聴いた作品は、エピック期の「浮世の夢」、「生活」、「奴隷天国」、ポニーキャニオン期の「明日に向かって走れ─月夜の歌─」、「愛と夢」、東芝EMI期の「俺の道」、「扉」、「町を見下ろす丘」である。ユニヴァーサル期のものは正直いまだに買っていない。強気なメッセージは空回りし、商業ロックのなれの果てといった趣がするからだ。それでも公平に見れば、初期にはいくつかはいい曲もあった。けれどデビュー30週年を迎えて猶、現在活動しているかれらの新作アルバム、「Wake Up」は試聴してあまりの酷さに辞もなかった。
 個人的な恨み辛みでもなく、もはやメジャーレーベルですら作品をつくりあげるということに興味も金もなくなったというのが、第一印象だ。狭小住宅がその半径2.5mを歌っているようなていたらく。ユニヴァーサルではなく、スピードスターあたりなら、もっと優れた作品を残せたかも知れない。もはや、かつてあったアルバムのトータル・コンセプトなどというものはなくなり、シングル曲とそれを埋めるだけの新曲あるだけだ。持ち味はなんだ、ジャケット・デザインか?──いいや、あんなものよりもすぐれたデザインならおれでもできる。サウンドか──いいや。編曲か──いいや。内容のない空疎なアルバムだ。ユニヴァーサルのオーヴァープロデュースが盛んに槍玉に挙げられるが、それを含めてもバンドとしての現状維持でしかない情況や、あきらかな予算のなさ、オマケ付きCDの連発、歌詞の劣化(内容の狭さ、語彙の貧弱さ、対象性の曖昧さ、繰り返される無責任な励ましと自己慰撫)、音づくりの平均化は眼を覆いたいほどだ。そして音楽雑誌は宮本ひとりの心模様を伝えるだけで、決して批評はしない。褒めそやかすだけだ。ただの広報紙でしかない。かつて岩見吉朗というひとが洋楽誌の「Rockin'on」で、エレファントカシマシの批評を書いていた。あの一連を読んだときの亢奮と驚きはいまでも忘れがたい。批評が機能し、それが野次馬ではなく、書き手自身とのつながりを明確していた。けれどもかれは「生活」を批判したのち、一切エレファントカシマシには触れていない。いまは漫画原作者であり、大学講師である。それにしてもあの「RAINBOW」の腑抜けた顔の写真が、高橋恭司の撮影であると知ったときも驚きを禁じ得なかった。かれがあんなにもつまらない写真を撮ってそれをデザイナーがさらにつまらなくする。いったい、なんなんだ?──わたしだってもっとましなものがフリーソフトで充分つくれる。

 


エレファントカシマシ ~ 自宅にて (sound only)

 
 去年、刊行された「Rockin'on Japan」のエレカシ本もわたしは不満であった。宮本の発言のみを切り取った書物には当時の空気が感じられない。読者投稿もコラムやレビューすらもなく、特に識りたかった東芝期の同時代性を窺い知ることもできない。なぜあんなものをつくったのか。けっきょくはファンアイテムのひとつでしかないうえに、一部の音楽雑誌はもうすでに精神性や心模様といったものでしか音楽を語れないほどに地に落ちたということなのだ。渋谷陽一山崎洋一郎もMUJICAの連中も、音楽を云々する資格なんかない。ミュージシャンと馴れ合いがやりたいというのなら客に見えないところでやってくれ。山崎洋一郎の功績なんざ「奴隷天国」を腐しつつ「東京の空」への橋渡しをつくったぐらいだ。あとはずっと駄法螺をやっているだけで、音楽が不在ななかでただ相手を褒め、甘やかすだけである。
 わたしの希望としてはユニヴァーサルが潰れるか、バンドがふたたび解雇され、今度こそインディーズにいくか、もっと制作環境のいい会社に移ることである。せいぜいその程度だ。曲の面でも詞の面でも百凡に陥っていることについていえることはなにもない。わたしはわたしの音楽をやるしかないのだから。

 《ここまで言っても誰も怒らないんだろうなあ》──「奴隷天国」の広告コピーより。

 

 

風に吹かれて -エレファントカシマシの軌跡

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マンガの方法論 マンガ原作発見伝

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