みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

愛についてのみじかく、そして淡いなにか(短篇小説)

 

f:id:mitzho84:20180428115834j:plain


 夜は若かった。かれらはそうでもなかった。車を走らせながら女たちを見た。酒壜をかたむけ、声をあげる。やがてひとりの女を口説いて連れ込んだ。かの女はなにもいわなかった。そのとき、ガラスのわれる音がした。なにかを毀したらしい。でも、その3人は気づかなかった。薄汚いアパートで1発やっちまおうとあがった。いっぽう隣の室では、メキシコ人の母子があたまを抱えてた。仕事がなくなり、就労ビザは切れ、でも娘は日本語しか喋れない。噫。──眞下は女を椅子に坐らせ、米村はベッドに腰かけた。木山は酒をつくり、テーブルにならべた。
 「この娘は静かにやりたいらしいな?」──米村がいう。かの女はなにもいわずに3人を見てる。眼はうつろだ。らりってるのかも知れない。眞下は酒にくちをつけた。アードベックだ。なかなかいい。木山はスケッチブックをひろげ、かの女をデッサンした。でも、みんな酔い過ぎてて見れたものではなかった。
   とにかくおれがいちばんだ──米村がいう。──おまえは女に手荒なんだよ。──眞下がいった。──だからいつも逃げられるんだ。──おれに文句があるのか、このやろう!
 眞下はかぶりをふった。好きにすればいい。おれは次の番を待つさ、そいつがあるのならな。──やがて米村が女を抱き寄せ、ベッドに運んだ。──さあ、かわいこちゃん、おれのコックを味わいな。きみのような美人にはその値打ちがあるんだぜ!──やつがかの女の長い足を膣にむかって嘗める。そしてスカートの襞にたどり着き、そいつをおもいっきり、たくし上げた。今度は上半身を愛撫し、それから顔を撫で、口づけをした。はあはあと喘ぎ、ズボンを下ろす。いちもつを入れようとしたときだった。
 「おい、大変だ!──来てくれ」──ふたりが来る。「この女、おまんこがないんだ!」──なんだって?──工具箱を持って来い!──木山は呆然としてる。眞下が小突いていった、──米村医師の緊急手術の時間が来たぜ!──木山は工具箱をもって寝室にいった。米村は女のあそこに穴を拵えた。これでできるようになったぜ、かわいこちゃん!──やつはさっそく女にぶちこんだ。悲鳴が聞えた。2人が寝室に入ったとき、床には血が飛び散り、女の首は折れていた。──なんてことをしたんだよ、おれたちの女神に!──木山が泣きそうな顔でわめいた。米村は拳でいっぱつやつを撲った。
 「うー、なんてことだよ。おれのあそこがずたずただ」──医者にいくか?──いけるわけないだろう、この女をまず片づけなけりゃ。──眞下は救急箱をやつに渡した。ともかく女を始末しなけりゃいけない。3人は女を蒲団で包み、車のトランクに押し込んだ。そして運転はいちばん酔いのましな眞下がすることになった。山道をいく。いまはキャンプの時期でもなく、車もひともなかった。もうじき渓谷だ。大きな河もある。そこから流せば大丈夫か。米村は眞下の隣で、大きなからだをふるわせてる。ふるえるたびに酒を呷った。そして眞下に一撃を喰らわせた。理由?──そんなものはない。車は脱輪し、うごけなくなった。
  ちくしょう、どうしてくれるんだ!
   おれにもわからねえよ、くそったれ!
  JAFでも呼ぶか、それとも死体担いで歩くか?
 そんなときだった。1台の車がゆっくり走ってきた。やがてかれらを見つけると停まった。降りてきたのは若い男だった。どうかしましたか?──いいえ、脱輪しただけです。──それは大変ですね。手伝いましょうか?──なにを手伝おうっていうんだ?──脱輪ですよ、道具もあります。──男は車から道具を降ろし、落ちたタイヤにかました。そして車体を2人で押し、もどした。眞下がいった、ありがとうございます。──こっから早く立ち去るべきだ。顔を見られてしまった。──男がいう。
   あなたたちはどちらへ行かれるんですか?
  渓谷を眺めに。
   こんな夜にですか?
  ええ、キャンプがてらにね。
   奇遇ですね、ぼくもキャンプなんです。
   ご一緒しませんか?
  んー、それは大変ありがたいのですが、テントを忘れたみたいでね。きょうはすぐに帰りますよ。
   それなら大丈夫です、ぼくのほうも友人たちが来れなくなってテントも余裕があります。
 男はどうしてほっておいてくれないんだ。──眞下はしかたなくうなずき、かれの車についていった。林道から砂利道を下り、駐車場に入る。やつが眠ってるあいだに逃げよう。そうおもって車を降りる。かれの車からテントやバーベーキュー用具を降ろし、河のほうまで運んだ。かれはテントを組み立て、寝袋をならべ、料理の支度をした。手早かった。火を眺めながら3人は語り合った。いまの仕事について、結婚について、趣味について。酒は、ジョニー・ウォーカーの緑だ。
 「ぼくは警官なんです」──男がいった。3人とも飛び上がりそうになった。「少しまえに辞めましたが」──なにかあったのか?──米村が聞く。フライパンのソーセージとベーコンを転がしながら。
 「ぼくにはつきあってる女の子がいました」──でもかの女は未成年で。それが親から通報で明らかになってしまいました。かの女との恋愛にはやましいものはなく、とてもうつくしいものでした。けれども発覚した途端、かの女は冷たくなってはなれていき、同僚たちも淫行野郎となじって、もうどうしようもありませんでした。上司たちは辞職するようにいいました。ひどい仕打ちです。ぼくは辞めました。警備会社に天下りするという話もありました、でも断りました。きょうのキャンプは何ヶ月もまえに考えていたことなのに、あの娘とのことで友だちもみんな離れてしまったんです。
 米村はベーコンを齧りながらいった。──女なんてみんなおなじだ。くだらない穴のために身を落とす必要なんかない。あんたは裏切られたんだ。でもそれが女の性質ってもんだ。おれにはただただ未成年とやれていっとき幸せだったってくらいにしか、聞えないね。──なんてひどいことを!
 男はうつむいて涙を少し流した。──ぼくのことをわかってくれるひとが欲しかったんです。かの女は期待に応えてくれたし、一緒にいるときは最高でした。非番の日にはデートにいき、よく映画を観たものです。かの女も映画が好きだった。でももはや会うことはできないし、かの女のほうもぼくのことを面倒にしかおもっていないみたいです。これからどうすればいいのか、わからないまま、日を過してます。いつか笑えるようになるまでずいぶんとかかってしまうでしょう。
 眞下はため息をついた。こんなやつと一緒ではいつまでもかかってしまう。そのうちに腐敗臭がするだろうし、だれかが通報するかもしれない。眼のまえにいる元警官はただのまぬけだからいいとして、いったいどうすればいいのか?──そのとき、木山が声をかけて来た。あたりに聞えないように耳打ちする。
 「あの女ってもしかして人間じゃないのかも」──なんだって?──おれたち酔ってたろ?──ああ──ショーウィンドウをわってマネキンをつれだして来たような気がするんだ、たしかじゃないけど。──眞下は立ち上がって車にもどった、そしてトランクをあける。たしかにそこにあったのはマネキンだった。一気に緊張が緩み、笑みさえ溢れる。キャンプにもどってスコッチをがぶりとやった。──おれたちは安泰だ!
 元警官は感情の高ぶりに声をあげていた。救いようもない。そのとき駐車場のほうから人影が現れた。しだいにちかづく。その首にはあたまがない。──あんたたち、よくもやってくれたわね!──このミソジニスト!──かの女は首を元通りに復元した。そして男に近づく。──あなたはほんとうの愛が欲しいのね?──ああ、そうだ。──わたしが人間になってあなたのもとにいくわ。──マネキンはゆっくり人間の女に変わっていった。肌は艶めかしく、瞳はあざやかに。冬のあたらしいスタイル、絶賛発売中!──そして男の手をとって唇を重ねた。3人は眺めているしかない。ふたりはテントのなかに入ってコトをはじめた。もうどうにもとまらない。かれらは互いをみやった、粗野な男たちが立っているだけだ。「おれたちもほんとうの愛を探そう」──かれらは車に乗って、町をめざした。盛り場を、あるいは美しい留置場を。

 

   *

 

 数ヶ月後、元警官のかれは悩んでいた。妻のふるまいに。──あんた、いつになったらまともな仕事を見つけるの?──あたしだってまえのようにマネキンじゃないのよ、まったくこんな安物の化粧品を買わせて、見てみなさいよ、肌がくすんでるんじゃないの!──さっさと職安にいってよ、このグズのロリコン!──かれは最近競馬を憶えだした。競馬場に入ったり、場外馬券場にいったり、あるいはA-PATを使ったり、金がなくなっていく。やっぱり警備会社へ天下りすべきだった。そうおもいながらかれはむなしくなり、書いているおれもむなしくなって来たところだ。じゃあな。