みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

短歌

無題

* 子羊のような贄欲す朝ならばわれを吊るせと叫ぶ兄たち 踏み切りに光りが滅ぶ列車来て遮られてしまうすべてが かつてまだ恋を知らないときにただもどりたいとはいえぬ残暑がつづく 会わずして十年経ちしいもうとの貌など忘るつかのまの夢 よるべなどなくて…

系図

* 水匂う両手のなかの海さえも漣打ってやがて涸れゆく まだきみを怒らせてゐるぼくだから夏鈴のひとつ土に葬る もはや兄ですら弟ですらないぼくが父母ない街ひとつを愛す 生きるかぎりに於いてもはや交わさぬ契りを棄てる いまはもうだめにしてくれ丸太積む…

九月になったのに

www.youtube.com * 来るたびにきみを眩しむ秋の陽の干割れた壁をひとり匿う 祖母死せり灸の痕を撫でながらわが指のさみしさおもう わらべらの声掻き消され一瞬の夏休みすらいまはむなしく 駅舎にてまぎれて叫ぶ男ありわれと重なる九月来たりて 上映せり夏の…

もしかするといなくなったのはぼくか

* 清らかな家政学科よ乙女らの制服少し汚れてゐたり 史を読むひとりがおりぬ図書館の尤も暗い廊下を走る 国燃ゆるニュース静かに流れたり受付台のうえの画面よ たゆたえば死すらもやさしみながみな健やかにさえおもえる夜は 送り火をかぞえる夜よ魂しいが焔…

世界が夏になったとき

* みずからの両手を捧ぐあえかなる南空のむこうガラスがわれる 夏跨ぐ句跨ぎ暑し森閑のなかを歩みて望む才覚 ひとがみな偉くおもえて室に立つ水一杯のコップを握る 彼方より星降る夜よバス停に天使のひとり堕落してゐる 夏しぐれ掴みそこねた手のひらを求め…

野焼き

* そしてまた去りゆくひとりかたわらに野良すらおらず藪を抜けたり 夕やみにとける仕草よわれらいま互いの腕を掴みそこねる 世はなべて悲しい光り笑みながらやがて散りゆく野辺送りかな 野焼きする意識の流れしたためる夏の化身の夜の呼び声 流れすら朝のま…

アマガミ

* たそがれに語ることなしあしたには忘れてしまう空気の色も 波踊る 真午の月のおもかげがわずかに残る水のしぶきよ 砂のような日常つづく意味のない標語の幾多ならぶ路上よ 友なくば花を植わえというきみのまなこのなかにわれはあらずや 星の降る夜はあり…

眼をひらいて祈るように

* 願いには意味などなくて立ち止まる駐輪場が増設された 水運ぶ人夫のひとりすれちがう道路改修工事の真午 からす飛ぶみながちがった顔をして歩道橋にて立ちどまるなり 眼をひらく祈りの対義求めても高架下には車止めのみ アカシアの花のなかにて眠るとき人…

街色

* 鶫すら遠ざかるなりかげはみな冷たい頬に聖痕残す 悲しけれ河を漂う夢にすら游びあらずや陽はかげりたる 寂しかれゆうべの鍋を眺めやる もしや失くせし望みあるかと ぼくを裁く砂漠地帯の官吏らがミートボールに洗礼をす うつし身の存り方おもう紅あずま…

と、おもう。 

* 懐かしきわが家の枇杷よ伐られつつ繁る青葉をいまだ忘れじ 子供らに示す麦穂の明るさはたとえば金の皮衣なり 遠ざかるおもかげばかり胸を掻く溢れんばかり漆の汁よ かなたなる蛮声いつか聞ゆるにわれの野性が眼醒めたりゆく きみがいい きみがきみである…

林檎のかけら

* 七夕の光りもわずかちりぢりに地上の愛を手放すふたり ベゴニアの苗木がゆれる 風の日に陽当たりながらわれを慰む だれかしら心喪うものがゐて舟一艘に眠りてわれ待つ ゆうぐれの並木通りに愛を待つ わずかなりたることばのすえに 天使降りる土地の主人を…

茱萸のおもいで

* 招き入るひともあらじや光り充ちさみしさばかり夏の庭にて シトロンの跳ねる真昼よ世に倦みていまだ知らないかの女の笑顔 草笛も吹けぬままにて老いゆけば地平に愛はひとつもあらじ 告げるべきおもいもなくて火に焚べる童貞の日の詩篇や恋を 熱帯魚泳ぐ夏…

青林檎

* 水無月のつるべ落としを眺めやる一羽の鳥のような憐れみ 地の糧もなくて窮するひとりのみ草掻き分けて見知らぬ土地へ やがて知る花のなまえを葬ればとりわけ夜が明るくなりぬ ふりむきざまにきみをなぐさむ窓さえも光り失う午後の憧憬 たとえれば葡萄の果…

夢譚のなかで

* 戦つづく骸のなかのおもいではピースサインのかく存るゆうべ 流れては消ゆるものこそ尊しと河辺の花をちぎって游ぶ いまさらにおもいでなどと呼ぶ刹那 冷凍庫に隠したるかな 彼方より流れ星かな一筋のなみだのようなきらめきありぬ ぼくがまだ生きてゐる…

大人になる予感

www.youtube.com * 紫陽花暗し夏のまえぶれおれの手が汚れながらに握る花びら 声あればふりむくときよ顔がまたちがったように見えるゆうぐれ 光りあれ 取り残された路地裏でつぎの出会いを待つは朝どき しぐれゆく街の時間よまざまざとひとの内部を照らす雨…

あるいは主人の非在

* 絶つ定め あるいは祝賀歌いたる余生のなかの雁の啼き声 身を放つ 窓の眺めが光りする、いつかのような死へのあこがれ きょうもまたさよならする両手 幽かなひとのかげまだ残る 車蜻蛉・アンドロメダよ銀河するおれの永遠曝す午後2時 時と時の硲よ いまだ…

観衆妄想

* この闇がぼくに赦せるものをみな運び揚げてはゆれる舟たち 夏来る山脈遠くかすみつつ胸のなかにて熟れる韜晦 さようなら彼方のひとよいつの日か花の匂いに眼醒めるときは 窓際の一羽のからす ほんとうは隠しごとなどしたくはなかった たわむれた過去のお…

反様式

* 記録図譜あるいは願い燃えあぐる荒れ野の果ての儚い夢よ 声聞ゆ学び舎寂し建築はあまねく過去を思い起さん 夏の日の真昼の幽霊 足許を照らす陽射しが猶も寂しく 対向する光りのなかをさまざまな過去が揺れてるわたしの現実 カラー喪失する夜半「シャッタ…

すべての距離

* われのみがひととはぐれて歩きだす初夏の光りの匂いのなかで ものがみな譬えのように動きだす暗喩溶けだす午前三時よ それまでがうそのようだとかの女がいうわれら互いに疑りながら つぎの人生あればたぶんきみを知らずに埋もれていたい うそばっかりで終…

風葬序説

* 百日紅 花の惑いにゆれながら猶新しき種子を撒くのみ 桜桃の枝葉の匂い 復讐はもどり道など断じていらず まさにいま風に葬られてゆくさまを叙述するのみ 風葬序説 からっぽの世界のなかで愛されて虚しさなどを具象する夜 駅いずれ世界の果てに残されて地…

酸模の茎 

* 連動する地獄の筵たなびいていままさに詠まれる夕べ やらず至らず試みずやがて溶けゆく意志たちのいま 水色の水充ちたればささやかな宴をともす深夜の酒席 心あらずも美しくあれ如雨露の水が降りそそぐごと 詩画集のなかに埋もれてゆく景色まだ一切を諦め…

センチメンタル・ジャーニー 

* わが春の死後を切なくみどりなす地平の匂いいま過ぎ去りぬ 感傷の色を数えるだれがまだぼくを信じているかとおもい 遠ざかるおもかげばかり道化師の化粧が落ちる春の終焉 夏の兆しあるいは死語のつらなりにわれが捧げる幾多の詩集 わがうちにそそり立つ木…

スケッチブック

* 垂乳根の母などおらず贋金のうらの指紋を眺むる夜よ 童貞の夏をおもいしひとときが飛行機雲となる快晴 水盥茎を濡らして終わりゆく五月の空をしばらく見つむ 父死なば終わるのかわが業も テーブルに果実転がる 陽当たりにトマト罐ひとついまだ未来を信じ…

演技論

* 同志不在なり萌えながら立つみどりたちやけに眩しく 地図上を旅する蟻よ思想なき犯意のなかのわれらが国家 期してまだ挑むことさえできぬまま遠くの海の潮騒やまず 鳥籠のかげが寂しくほぐれゆく夕暮れどきの落胆ばかり 監獄に夏蝶ひとつ放たれてわれは呼…

みな殺しの歌

* おいで おいで 呼ぶたびに消ゆるもの 来るものを拒まず ウォーホルの原色 死を孕む街のうらがわの果実なりき 葡萄食む子供の眸潤むなりわれは孤立を少し癒すか 荼毘に付すわが青春の一切をたとえ赦すものあれど 吹きよどむかぜのむこうに一輪の町が咲いて…

暗黒祭りの準備

* ことばなき骸の帰還御旗ふる男の腕がわずかに震るる もしやまだ花が咲いては切られゆくこの悔しみになまえを与う 水温む五月のみどり手配師がわれを慰む花もどきかな 真夜中の歯痛のなかで懐いだす星の彼方のささやきなどを 呼び声のなきままひとり残され…

異端審問

* 黄昏よなべものみなうつくしく斃れるばかり 長距離の選手たち みどりなるひびきをもってゆれる葉をちぎっては占うなにを あかときの列車のなかに押し込まる自殺志願のひとの横顔 花が咲いて 散るもの知らず故知らず ほらもうじき雨季来る 枯れる湖水 もは…

まくらことば

* あからひく皮膚の乾きよ寂滅の夜が明くのを待つ五月 茜差すきみのおもざし見蕩れてはいずれわかれの兆しも見ゆる 秋津島やまとの国の没落をしずかに嗤う求人広告 朝霜の消るさま見つむきみがまだ大人になり切れない時分 葦田鶴の啼く声ばかり密室にボール…

死はいずれ

* かげを掘る 道はくれないおれたちはまだ見ぬ花の意味を憶える 眠れ 眠れ 子供ら眠れ 日盛りに夏の予感を遠く見ている プラタナス愛の兆しに醒めながらわがゆく道に立つは春雨 祖母の死よ 遠く眠れる骨壺にわが指紋見つかりき 葡萄の実が爆発する夜 ふいに…

ヘンリー・ミラー全集の夜

* 狩り人のうちなる羊番をする少年の日のかげを妬まん 永久という一語のために死ぬなかれ、やがて来る陽のかげりのために わがための墓はあらずや幼な子の両手にあふる桔梗あるのみ いっぽんの麦残されて荒れ野あり わが加害 わが反逆 暴力をわれに授けし父…