みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

短歌

ぼくの足は冷え切ってる(今月の歌篇)

* みずからを蔑してばかり遠ざかる町がらすのなかのかのひと ためらいもなくてぼくは呼びかける朱雀の翔る春の前触れ 鯨雲ひととき首垂れながら髪掻き毟る淡い午后の陽 月影のまたも滴る零時過ぎスケートボード横転する わるぎのないいたずらなまなざしにさ…

経験 [2016/01]

わがうちを去るものかつて分かちえし光りのいくたすでになかりき 指伝うしずくよもはや昔しなる出会いのときを忘れたましめ 過古のひとばかりを追いしわれはいま忘れられゆくひととなりたし かのひとにうずきはやまずひとひらの手紙の一語かきそんじたり 救…

夢と雨の日曜日 [2018/06]

* 老木のごとき時間を過したる夕暮れまえのぼくのためらい きみをまだ好きだといいてかりそめの証しを立てぬ流木の幹 涙という一語のために濡れながら驟雨の駅舎見あげるばかり いっぽんの釘打ちひとりさむざむと弟だったころをおもいぬ 薪をわる手斧のひと…

放浪詩篇の夜 [2018/05]

* ときとしてきみのなまえを口遊む葡萄の果肉干乾びるなか 汗の染む放浪詩篇かのひとの跡へむかってうち棄てたりし 屠らるる敗馬のうちの光りたれまなこの奥の少年のぼく 唇に注がれたりぬ午后の陽のまれなる色のきみのまなざし 立ちどまる猫や光りの一滴を…

手師の惜別 [2018/04]

* 河縁の春のよすがも綻びて一銭五厘の娘となりぬ 火を燈し六角星のぬばたまに攫われていくパレスチナかな 日本語の律いっせいに狂いたる夏の匂いの向日葵畑 雲射抜く機体を見あげ一滴の汗する望郷詩篇の書 更ける夜の公衆電話一頭の鯨夢見ん声また声 流民…

天使の渾名

* 神に似し虹鱒捌くはらわたに出産以前のかがやきばかり 生田川上流に秋を読みただ雨を聴く水に宿れる永久ということ 校庭の白樫の木老いたれてもはやだれもぼくを呼ばない それでもまだ青年の日を悔やんでる、眼つむれば無人の回転木馬 北にむかって濁れる…

われのリリオム

* リリオム ならず者のところへもくるか? もし愛したら──(モルナール「リリオム」) * 天籟を授かりしかなゆかこという少女愛しし十二のぼくは 裏庭を濡らす霧雨にすらかのひとのかげを重ねたりにけり 初恋に死すことならず三叉路の真んなかにただネオン…

愛が、愛がわれわれをひきはなす(今月の歌篇)

* とっぷりと暮れるときには会えていたころよものみな遠ざかるなか あれがただ青麦みたいに見えるからふりかざされるまえに答える 沈黙に守られながらいたいといいてももろびとのやかましさ 光り降る二月の夜だってことを抱きながらふるえるわれよ 若かりし…

蒸発旅日記

* テニスンの詩篇も燃ゆる丘の火に飛び込まざるを嘆き零るる 三日月ややなぎのかげに眠る子のひたいの白き照らすばかりか 外套のボタン喪う日も暮れるいったいぼくがなにをしたんだ 砂糖菓子降る町ありや陸橋を過ぐときにふと考えている いっぽんの藁もて聖…

When you're growing up in a small town

* 卑語にさえたじろがないきみの眼に見つめられつつ過ぎる葦原 日本語の孤愁へひとり残されて犀星の詩を口遊むのみ 再会を遠く夢見て老いてゆくいっぴきのわれ死せるその日よ 「ふるさとは遠きにありておもうもの」ひとり立証せし一夜 死せし犬縄の終わりに…

月夜のドライヴ2018

* やまゆりの花をおもって晩秋のひとつの枝を手折る雛菊 月光に寄りそうわずか羞ぢらいのおもざしをするかのひとのかげ ぽっかりと月がでたならドライヴへ走ってしまいたいなぼくのハイウェイ 蟹歩く月面見んと背伸びして季節外れの風鈴をわる やがて来る雪…

november/晩秋の一夜

* 黒がねの馬の蹄のように鳴る吾の革靴よ闊歩、kappo! 遠ざかるうなだれるかれ晩秋の一夜のように立ちあがれない 斑鳩のそらよひとひら羽が落ち町全体を包む漆黒 倦めばただ天井見つめひとときの虚ろのなかをさ迷いし哉 黒雲のむかうところにたどり着くさ…

十月の黄昏れた海(今月の歌篇)

10月のたそがれた海 * ボール抱く少女のかげを奪う月その影のささやかなる夕べ どんつきに馬現るるゆきどまり去るべき道を失う夕べ 父死せり雲雀のかげを追うせつなまだ見ぬボール投げ合うわれら かたき討ち気分でひとりふかぶかと帽子かぶった秋の長雨 悼…

僕(今月の歌篇)

* 秋の月まばゆくなりぬ半月に世界のすべて託し給えよ 星の夜に水の魚は光りけり葬場の鐘に跳ねあがりたり 秋月にあずける恋よひとびとのなかにふと迷えるおもい 標なき十字路にただ立ちながら炎天に燃ゆる蠅をば見つむ 秋の雨ひとかげみなのまなざしをただ…

august/8月

* さすらえば鰥夫の身こそ倖せとおもい果てたる真夜の駅舎よ 晩夏訪れてたったいま淹れる珈琲の湯気に消ゆるすべての死者は 暮れる丘奇蹟の粒もなきがまま天然の美を湛える河や 濡れそぼつ聖母のごとき裸婦像やわれを見初めて連れてゆかんか 草木の燃えあぐ…

サマー・ソルジャー(今月の歌篇)

(PV) サニーデイ・サービス - サマーソルジャー それは天気のせいさ──サニーデイ・サービス「サマー・ソルジャー」 * 生命の理やぶりそれほおどにきみと会いたき夏のはじまり 水たまり飛び越しながら光りつつ最后のひとつに加えられたし ソーダ水の残りの滴…

短歌とオイル・サーディンについての論考

腹が減った。きょうから禁酒のためにノックビン散薬を呑んでる。「短歌研究」及び「角川短歌」、どちらも脱肛した。できあがったということだ。角川は題名以外すんなりといったが、研究は何度も駄目だしを喰らい、ようやく出来た頃には最初の主題はほとんど…

「土のなかのぼく、土のなかのまぼろし(仮題)」没歌篇2018

過日、森忠明先生へ二篇の短歌を送ったのだが一偏ぜんぶ没になってしまった。というわけでこの行き場のない歌をここに残しておこう。 「土のなかのぼく、土のなかのまぼろし(仮題)」──短歌研究新人賞のための歌篇 わが帰途を見失えりただひとりゆくなら黄…

ジューク・ボックスの時代に

ジューク・ボックスの時代に 水鉄砲撃ちつくしたり裏庭を駈けて帰らぬ幼年の業 美少年クロスロードにさしかかり魂しいの値をきょうも数えん 翻るワンピースや物干しの彼方に失せる数千のきみ 怖じ気づいて去るぼくの姿よ泥濘のなかに紛れん犯意の確かさ ロッ…